バランス

ヴァイオリンに求められることは大きく3つに分けると考えやすいかもしれません。
音色、演奏性能、美観としてみましょう。
それぞれ、独立した要素でもありますし、互いに影響を与えあっていると実感しています。

比較的イメージがつきやすいように少し具体的にお話ししますと、
アウトラインやアーチの膨らみ加減はボディの内部容積に関わりますし、内部容積や空間形状はF字孔と関わることで空気の振動に関わり、音色、響きなどを左右します。また響きは板の振動によって変わってきます。板の振動は板の厚みと関連があり、アーチの膨らみや素材ごとに最適な厚みが異なります。ニスの厚みや種類によっても影響は現れるでしょうし、楽器の形状や質感は美観を大きく左右させることにもなります。

どの要素もそれぞれが手を取り支え合い、音色を生み出しています。
製作では楽器としてバランスを重視しつつ、いかに良いと感じられるものにできるのかということを念頭に置いています。

正解はありませんが結果は出ますので、
自分のしている事が果たして最適なことなのかどうかと自問自答し、考えが偏らないよう気をつけています。求めれば求めるほどに知識はそばへと寄ってきてくれますが、気づかずに通り過ぎてしまいがちです。

数世紀もの歴史を持つ楽器ですが、はっきりとわかっていない部分もあります。
人の心のようですね。
わかりそうでわからない。でも、心をもって語りかけると通じあえます。
そしてまた、そのような楽器を作りたいものです。
何より最終的な音色を決定づけるのは、その楽器の奏者であるあなたです。

奏者は楽器からインスピレーションを得ることもあるでしょう。そのためには応えてくれる楽器でなければありません。つまり、フィンガリングやボウイングなどを通じて語りかけた時に気持ちよく返事をしてくれるかです。
会話が通じなければ関係がぎくしゃくするのは世の常です。

そうして楽器を通じてあなたの心が音色になった時、音色を耳にした人は何かを感じるのではないかと思います。

またこれからヴァイオリンと時を過ごそうと決め、心を躍らせておられる場合はフィーリングを大切になさってください。
練習につまずいた時は、きっと励ましてくれ、共に苦難を乗り越えた時には喜びを分かち合ってくれるでしょう。

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ヴァイオリン作家/松江世次