ヴァイオリンの表板と裏板のアーチが満足できる程度まで仕上がったので、内側を削り出してゆきます。ここからは音色に関わる工程なので、期待もあれば緊張もします。
まずは表板の削り出しから。しっかりと固定し両手を自由に使えるようにしておきます。刃先の鋭い鑿から始まるので慎重に。

鑿で一番厚みのある板の中心部分から削り始めてゆきます。スプルースはチーズのように柔らかいので木材の逆目に気をつけて削ればあっという間に粗彫りが終わります。


まずは全体が5mm厚になるように削り出し、次に4mm厚に揃えてゆきます。ここからはチューニングになるので削り方と削る場所のポイントを考えながら削り出してゆきます。
ところが、、、、
ヤニ壺に出会ってしまいました。
樹木は成長過程で樹皮を巻き込んで育ったり、樹脂(ヤニ)を包んで成長したりします。
ヤニ壺とはこの樹脂を包んだ状態で成長した痕跡とでも言えましょうか。
このヤニ壺は製材された木材のどこから見ても事前に見分けることが難しいもので、大抵の場合は木材の内部に存在しています。かすかに年輪が一部だけ太くなっている様子が製材された木材の表面に現れていれば避けることはできますが、いかんせん内部にあることが多いので、削り始めなければわからないものです。
ヤニ壺はそのままにしておくとヤニが噴出してきたり、ヤニが溜まっている場所は弱いので、ヴァイオリンの場合はクラックの原因となったりします。
そのヤニ壺に当たってしまいました。(これに当たるより懸賞や宝くじに当たりたいという内心)
アーチの時点では存在の影さえありませんでしたが、内側を削り出すとすぐに現れたのです。。
ヴァイオリン製作の天敵と言えると思います。

こういった場合は埋木で処理できればまだ良い方で、存在している場所や大きさによっては破棄しなければなりません。
せっかくのアーチも水の泡となります。
せめてアーチングの時に現れてくれれば諦めもつくものの、よりによってこのタイミングでの出現には悩まされました。
幸いなことに大きなヤニ壺ではなく、最悪の場合は埋木で対処しようと検討していました。
実はこのスプルース材は理想的な素材だったので破棄することのメリットよりも素材の良さのメリットの方が大きいと判断した結果でした。
また、深さを調べたり、光の透過度を見てみると「削出し後には消えている」可能性もありました。
ただ、この可能性は確信ではありませんでしたので、削り出し中はずっとこのヤニ壺が気になって仕方ありません。

望みを抱き、最悪の場合の対処を考えながらのチューニングはストレスフルなものでした。。。
そのような状態でしたが、チューニングが進むにつれヤニ壺はやがて小さくなり、次第に樹脂もなくなってゆくではありませんか。

希望が見えてきた嬉しさは、判断を誤らなかったという喜びにつながります。
本当に一安心です。
振り返れば、アーチの形状や板厚が少しでも変わっていれば最悪の状態だったというギリギリの状態だったわけですね。
もし、もう少し低いアーチのモデルだったらと思うといたたまれません。。。
この偶然は、「このスプルースはこのモデルとなるべくして存在していた」ようにも感じ、愛らしく思えるようになってきました(笑)。

そして肝心のチューニングについてですが、現状では目指したものにぴったりと一致している状態です。
この点も今回の喜びの1つとして挙げることができるでしょう。
ただし、現状でのことなので、裏板のチューニング結果によっては微調整が必要となりますが。
表板としてはF字孔を開けてバスバーを取り付ければ良い状態となったので、メイプルの裏板材の内側の削り出しとチューニングへと工程を進めてゆきます。


裏板は硬いのですが、アーチの高さと起伏が低めなので実際に削り出す量は表板ほどではありません。しかし力仕事なのでゆっくりと進めます。
鑿で、ある程度の深さを作れれば鉋の出番です。
一難去ってまた一難となってしまわない為にも慎重に進めてゆきたいものです。
