ヴァイオリンをはじめとする擦弦楽器において松脂の存在は切ってもきれない関係にありますね。
今日はその松脂を加工していたので、松脂について少し。
ヴァイオリンを演奏した後、松脂の粉が指板や駒付近に付着しますが、出来れば毎回演奏を終えた都度に軽く拭っておくと良いのは周知の通りです。そのままにしておくと粉の層が厚くなり拭い取ることが大変になったりします。チリも積もればなんとやらですね。
ちなみに松脂はクロロホルム、酢酸、エーテルやアルコールに溶けるという性質がありますが楽器に付着した松脂の粉末を手っ取り早くアルコール類で拭い取ろうとしてはいけません。。
楽器の仕上げがアルコールニスで行われている場合は、松脂を取ろうとして塗布したアルコールがニスを溶かすことに繋がるので専用のクリーナーが必須アイテムとなります。仕上げがオイルニスであってもニスに影響を与えることになります。
そんな厄介な松脂の粉ですが、今日は松脂を擦り下ろしてあえて「粉末」にしていました。
用いたのは楽器用品として調合された松脂ではなく、松脂の固形物でロジン(樹脂)そのものです。
松脂は樹皮から採取した直後は透明の液体で、時間の経過とともに揮発成分が飛んでゆくことで粘度のある液体にとなります。そこからテレピン油や固形のロジンとなるわけです。

画像で大きさが伝わりにくいですが、手のひらに乗るほどの大きさの塊で綺麗な琥珀色の透明度が高い高品質なロジンです。
この状態は純粋なロジンなのでわずかな衝撃で粉々に割れて扱いが厄介です。楽器用品の松脂も割れやすいですが比較にならないほど脆いです。
これを画像にある”おろし金”で擦り下ろして粉末にしました。力の入れ加減で小さく欠けてしまったりすると無駄になってしまうので、ほどほどの力加減で。。
結構な大きさだったので意外と時間がかかりましたが大凡1時間程でようやく、ひと塊りが粉末に。

当初は塊ふたつを粉末にしようと意気込んでいたのですが、ひと塊で十分過ぎる程の量になったので大満足です。余談ですが、何よりも腕の疲れが相当なものでした。
ではこの粉末を何に使うのかというと弓毛の端処理のために必要なのです。弓の毛替えの下準備の場面です。今回はゆっくりと写真も撮影しながら進めましたので、どのように使用するかをご覧ください。
まず、弓1本に使用する弓毛を取り、長さをソーティングして使用できる弓毛だけを選別します。

選別した弓毛を糸でしっかりと束ねて毛束が解けないようにします。その後、飛び出した端の長さを揃えます。

糸で縛るだけでは内側の弓毛が動いてしまう状態で中心部の毛が抜け落ちることもあります。そういったことを防ぐために弓毛の端を固めてしっかりと固定しなければなりません。ここで擦り下ろした松脂の粉末が登場します。粉末に縛った弓毛の端を押し付けて弓毛に付着させます。


縛った糸から先端部分にかけて満遍なく付着させるのですが、2回ほど繰り返すので1回で付着させすぎないようにします。

アルコールランプに火を灯して遠火で炙るように熱を加えます。松脂の粉末はすぐに溶け出して透明になるので毛束を回転させ、焦がさないように注意しながら溶かします。松脂の量の様子を見ながら必要に応じて粉末を追加します。

表面に松脂の層ができれば、溶かした松脂が束の内部にまで浸透するように溶けている状態のまま指で圧力をかけて形を整えます。これで毛束の端処理が終わりです。溶けた松脂が常温で固まる性質を利用して接着剤の代用としているわけです。
この方法以外に薄めた膠を使って端処理をする方法もあるようですが、乾燥まで時間が掛かるように感じます。松脂を使用すると冷めれば固まっているので時間の節約になるのではないでしょうか。そういった意味では瞬間接着剤も有用かもしれませんね(トライしたことはありませんが、、)。
先に述べた通り、ロジンは脆くて割れやすいので塊を布地に包みハンマーで打ち砕いて粉々にする方法が一般的で手間も掛かりません。
その方法だと砕けたロジンの大小があるので、個人的には松脂の量を調整しやすい粉末が好みです。