昨日のパーフリングもしっかりと固着したので、突出部分を削り落としてボディ表面と一体化させました。
丸刃で削っていると削り屑がスクロールの渦巻きラインになっていました。自然界の螺旋や渦巻き模様というのはフィボナッチ数列そして黄金比と関係があることは周知の事実ですが、何気ないところで気づくと少し嬉しい気持ちになったりします。また、改めて楽器のラインは自然と関わりがあることを実感します。
人が「美しい」と感じるものには、何かしら自然界に基づいた原則が垣間見れます。人間も自然界の生き物なので当たり前なのかもしれません。
そのようなことを考えながら、表板側のパーフリングも施さなければならないと思いつつも継続中の作業が途中では集中できないので、先ずはその作業を終わらせることに専念です。
ヴィオラ用に挽き割りをした木材ですが、鋸刃の痕を鉋で消してスムーズな状態に整えました。実はここでスムーズに整えておきたかった理由の一つに、木材に現れている模様である杢をしっかりと確認できる状態にしたかったことがあります。
この次の段階では挽き割りした木材を接着して一枚の板の状態にしなければならないのですが、その時にこの「杢」が中心(接着面)に対して左右対称に近い状態で揃っているようにしなければならないからです。荒い表面よりスムーズな表面の方が状態を確認しやすいわけです。
ここから接着面を鉋掛けで「両面がピッタリ」とする状態に整えます。
下の画像は挽き割り直後で接着面を合わせようとしても角度を含めた諸々の要素が合っていないので接着できない状態です。
赤いラインで印をつけましたが、この射線部分が不要となる部分なので削り落とします。ポイントはそれぞれの接着面を底面に対して直角に加工することです。
ここで、タイトルの「シューティング・ボード」という道具が活躍します。段差が生まれるように板材を張り合わせただけの原始的なものですが、これが無ければ効率の良い作業ができませんし、美観にも関わってしまいます。
フリーハンドで削っていても無駄に削り落とす部分が多くなり、それぞれの材料の幅に違いが出てしまうと、接着時には杢の幅が異なってしまい、繋がりが不自然になってしまうこととなります。削った分だけ模様の違いが発生してしまい「違和感」に通じてしまうので、接着面を中心に杢が反転しているように仕上げることが理想です。
素材の大きさに余裕がある場合は、両側の板を杢が揃うように削り込むことで調整出来るのですが、今回は用意した素材のサイズがギリギリの大きさなので最小限の加工に留めなければなりません(ヴァイオリンの大きさに合わせて製材された材でヴィオラを製作ということなので余裕がありません、、)。
上の画像が「シューティング・ボード」で、左側の端底面には作業台に引っ掛けることが出来るように棒材を取り付けており、右側の上面端側には材料を引っ掛けるために棒材を取り付けています。
「シューティング・ボード」と聞くと何かのゲームのようにも聞こえますが、鉋をかけることを英語でシュートと言うことが由来です。日本語だと鉋掛け板という感じでしょうか。
日本の大工さんも現場ではこのような道具を即席で作って使用しています。
斜めに板を立て傾けて、その板の下側に釘を打ち、そこに素材を固定して鉋を掛ける訳ですので、同じことです。違いは日本の鉋は手前に引くことで掛けることが出来ることに対して西洋鉋は押すことで掛けることが出来ることなので、素材の固定位置が異なるというわけです。
では、加工を始めてゆきます。まず、下の画像のように素材の端を「シューティング・ボード」の固定部分に引っ掛けます。
この「シューティング・ボード」の良いところは、上から鉋を掛ける以外に「側面」から鉋を掛けることが出来る点です。
西洋鉋はボディが直角に作られているので、横に倒して鉋を掛けると直角の面を作ることができるように設計されています。
その鉋を倒した状態です。このままボディを掴んで、押して掛けてゆきます。
掛け始めは削り落とす幅が狭いので軽い力で掛けることができます。下の画像は最初に鉋を掛けた状態で、鉋屑も細いものです。
しかしながら、削り進めると幅が広くなってゆくので摩擦係数も増えてしまい、かなり力が必要となります。下の画像あたりから横向きに力を掛けることが難しくなります。
この程度まで面を作ることができれば角度を保持しやすくなるので、次は材を縦に固定して上面から力をかけて幅を広げてゆきます。鉋台が板材から離れないように密着させながら、ゆっくりと丁寧に掛けます。わずかなガタつきが歪な面を作ってしまいますので慎重に。
最終的には二つの板材を接着するので、
- 直角を保つこと
- 接着面の直線性を確保すること
- それぞれの接着面の平面性に気を配る
といったことが必要となります。
上の画像では、ほぼ仕上がりに近い状態と言えます。ですがやり直しの出来ない接着作業なので、もう少し時間を掛けて接着面を整えてゆきます。
杢の状態や素材の大きさ、直線性や平面性、角度など配慮する点が多い接ぎ(はぎ)の作業ですが、ヴァイオリン製作ではこれが1つの山場になります。
そのように考えると、まだヴァイオリンの形さえありませんが、材料を手にした時点でヴァイオリン製作が始まっていると言えるのかもしれません。または、テンプレートを作る時点から始まっているのかもしれませんし、製作のための資料を手にした時点からかもしれません。今、改めて感じました。