月と木材

新年明けましておめでとうございます。1日の夜はスーパームーンという事でしたので、月光を浴びながら月と木材について考えていました。

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2000年というミレニアムを迎えたのが最近の事のように感じるのですが、もう17年が経っているのですね。ミレニアムはNYタイムズスクエアで迎えたので印象が鮮やかなのですが、あと少しで2020年と思うと時の流れ、まさに矢の如しです。

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元旦の夜から翌日の朝にかけてスーパームーンが見られるという事でしたので、久しぶりに月を眺め、写真に収めました。

幸いにも快晴で月明かりが明るいほどでしたので、はっきりと見ることが出来ました。

Moon_1_1_2018

ごく稀に、目を奪われるほどに大きな月を見られることがありますが、今回のスーパームーンは普段より「やや大きい」ほどで驚く程ではありませんでした。シャッタースピードやISOなど調整しながら写真を撮っていると時間もあっという間に過ぎます。

もう少し黄色が出るように撮影したかったのですが、どうしても青白くなってしまいました。。思うように撮影できませんでしたが、この月もなかなか魅惑的な表情です。

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月と地球の関係と影響
人類が誕生する以前から存在している月、もちろん人間と月との関係は多くの文化において歴史のあるものです。また重力や潮汐の関係をはじめとし、伝承や神話、自然大地に与える影響や文化・経済活動において、そして人体への影響など月の影響力は多岐に渡っているようです。神秘的ですね。

しかし、その月の影響があるのかないのかという事ははっきりわかりません。影響ありそうだけど、データを積み重ねると関連性がなかったことがわかったり、、ということもしばしばだそうです。

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新月伐採
神秘さやロマンは夢想のままでも良いので抱いていたいものです。ふと「月光」を聴きたくなってきました(笑)。そのような月ですが、木材とも関係があるとされている事をご存知でしたでしょうか?いわゆる新月伐採というもので伐採のタイミングを新月に合わせたものです。

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樹木は根から水分を吸い上げて幹の導管を通ることで水分を得ています。そのため伐採してから水分を抜き、乾燥させることで材料となります。

樹木は自然のものなので、自然のサイクルに沿って成長しています。その根底には樹木の生きる糧となる水分摂取も自然のサイクルによって影響を受けているという観点から、樹木の導管に水分が最も少ないとされる新月のタイミングで伐採し、より良い材料として生かしたいという考えが込められています。

古くから採用されている方法なので、先達の経験と知恵による賜物だと思われます。発祥は判りませんが、西洋問わず各地に残っているものだと思いますので経験則から生まれたのだと思います。木材のほか、自然に関する影響では新月に収穫する農法があったような気がします。かつて天体を暦にしていたことを考えると月の満ち欠けは目安になっていた事が想像できます。

この新月のタイミングで伐採した樹木は水分が抜けやすく、軽く強い木材として製材することが出来、その結果、防虫効果も功を奏して長持ちすると言われています。

しかしながら現在では検証の結果、科学的には効果がないという結論が無きにしも非ず。

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新月伐採のヴァイオリン材
今日の主役はそのスプルース材です。

ベルギューン
スイスのベルギューン地域で伐採されたスプルース

楽器用木材においてはスプルース材にもそのような新月伐採の木材が産出されています。スタンプされた三日月が新月伐採を表しており、しっかりと番号管理されている様子が窺えるスタンプと奥にはグレードを表すスタンプが押されています。こちらはMA(マスターグレード)で、この地域で産出されるスプルース材では最上級のものです。同地域のスタンダード材と比較すると3倍ほどの価格差があります。

ヴァイオリンの表板となるスプルース材としてはイタリアのフィエンメ地域のものが非常に良いとして知られています。当工房でもスタンダードにフィエンメのスプルースを使用していますが、品質とポテンシャルの高さに異論はありません。

フィエンメ産以外でも探せば良い材はあります。個人的な見解ですが、純粋に木材として良い感触を得ているのがスイスのベルギューンという地域で産出されるスプルース材です。上の画像の通りに真っ白な木材です。もちろん、このままシーズニングしていると焼けて表面の色はゴールド色に変化してゆきますが、加工すると真っ白な木肌が現れます。

この地域で産出されるスプルース材の特徴として、軽量、捻れや歪みのないまっすぐで等間隔の年輪、木肌の滑らかさと純白さ、縮杢の輝き等が挙げられます。広い地域からサンプリングを行い、伐採する地域を決めているそうです。さらには樹木が育っている標高や方角まで考慮されているとのこと。

ベルギューンの新月伐採についてですが、もちろん新月のタイミングで伐採されており、一般伐採とは区別されています。余談ですが、初めて新月伐採と聞いたときには新月の夜中に、月明かりのなかで伐採しているのだと思っていました。。実際には新月の週(日中)に伐採するそうです。

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新月伐採の効果と役割
では新月伐採の効果は?となると、正直なところ、不明です。

神秘的な響きを伴っていて、何か不思議な力があるように感じるのですが、、はっきりとは判りません。

判断がつかない理由は、楽器用木材として産出されているスプルースそのものの質が良いように感じられることが挙げられます。実際に水分計でフィエンメのスプルースと比較してみても同レベルです。わずかな比重の違いは個体差としても、年輪や木肌の質感というとフィエンメとは明らかに違います。ただこれは良し悪しではなく、好みの問題となってくる部分です。それぐらい質が高い事が新月伐採の効果であるのか、この産地の木材自体の質なのかが判断しかねる部分なのです(おそらくこの産地の特性だと思います)。

判断基準を設けることが難しいということが挙げられるのではないでしょうか。

新月伐採に関わらず、木材の性質には傾向があり、弓に使用する馬毛が寒冷な地域の馬毛ほど腰が強く品質に優ると同様、スプルース材も寒冷な地域で季節による寒暖の差が少ないほど品質は良くなります。夏が涼しいと夏に育つ部分と冬に育つ部分の差が抑えられ、夏目と冬目の厚みが綺麗に整います。また寒冷で一年間に育つ成長量が少ないので年輪の積み方も綺麗になります。

その点ではイタリアのフィエンメよりやや北に位置するベルギューンも楽器用木材に適しているとも言えますが、地球レベルで見れば誤差程度の違いでしかないかもしれません。下の画像は上が北です。緯度は少し異なるだけです。

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ベルギューンとフィエンメ

楽器用木材としてこの地域の「新月伐採ではないスプルース」を知らないので、その効果については判断ができないのですが、新月伐採が担う役割は非常に大きいと思います。

製材所を通していても、木材がどのような地域でいつ伐採されて、、、というような事ははっきりとわかりません。その管理がどのようなものかというのも知るよしもありませんが、新月伐採の良し悪しは別としても、ベルギューンで新月伐採されて管理されているということがはっきりと分かっているという事は安心に繋がるように感じています。

何よりも純粋に木材をみて上質だと感じられるので、ベルギューン産スプルースは新月伐採という付加価値がついている楽器用木材という位置付けで考えるようにしています。

伝統である・非科学的だという両論があることを念頭に置くと、新月伐採の効果はもちろんのことですが、しっかりとした伐採基準があることで製材・管理方法の一つとして賢明な手段だと思います。何よりも木材そのものが良いので文句はありません。

楽器となった場合のトーンについてですが、ベルギューン産は華やかな音色の傾向がある印象です。もちろん、この新月伐採のスプルースを用いてヴァイオリンやヴィオラを製作することも可能ですので、お気軽にお問い合わせください。

最後にフィエンメ、ベルギューンのスプルースに加え、北米産のスプルースの画像を掲載します。同じ環境で撮影しましたので比較のご参考になれば幸いです。

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フィエンメ産
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ベルギューン産
sitka_mag
北米産

 

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新月伐採の良い効果があれば大歓迎ですし、そうでなくとも新月伐採されているということで、つい何か特別な存在のように感じてしまいます。

楽器としてより良い結果を得るためにはより良い木材が必要不可欠ですが、良い木材を得たからと言っても楽器としての良い結果を得られるとは限らないことも事実です。楽器製作の難しさはここにもあるのではないでしょうか。

新月伐採も、「より良い木材にしたいから新月伐採をしている」という思いが込められているように感じてなりません。新月伐採ありきではなく、もっと良い状態で木材にしたいという動機があるという印象です。

大切な、貴重な木材を存分に活かせるように邁進してゆきたいと心を新たにした年明けでした。短い時間でしたが月光を身体に受け、木材に思いを馳せていました。きっと月の影響を受けて考え始めたのかもしれませんね。

 

ご質問などありましたらお気軽にお問い合わせください。

 

 

 

 

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