しばらくの間、ストラディヴァリの木型に取り組んでいますが、ようやく”G”が完成しました。
まずはテンプレートの製作から始まります。テンプレートの素材には塩ビのシートやベニア、アルミの板材などを用いますが、今回は真鍮板を使ってみました。塩ビのシートやベニア板は柔らかいので加工が容易なのですが、少し間違えると大きく形が変わってしまいます。厚みにもよりますが、アルミ材は加工し易い割に強度があるので好んで使用しています。真鍮板は初めてでしたが想像以上に苦労しました。
因みにストラディヴァリはテンプレートを用意する場合は厚紙を使用していたようです。木型のコンパスの跡などを見ていると、おそらく板材に直接描いて製作していたようにも思えます。
さて、今回のテンプレートの真鍮板に戻ります。
まずは板材を保護するために両面ともガムテープで覆います。糸鋸盤で切り出しを行うと糸鋸盤の台に擦れてしまい見るに耐えない状態となるので、その予防策です。
そしてラインに沿って切り出したデータをしっかりと接着させました。プリントした用紙をそのまま貼り付けるという方法もありますが、後々の整形でラインが不明瞭になってしまうので最初から切り出しておくとラインを保持し易いと思います。

データ通りにテンプレートを切り出して形を整えて、そのテンプレートを基に木型を切り出します。このテンプレートですが、コーナー部分のライン用のテンプレートがあるので必要ないかと考えましたが念の為に作りました。木型に事故があったとしても同じものを複製できるという安心感の為ですね。
木型は直角を意識しながら其々の湾曲を整えてゆきます。テンプレートが硬ければ、この作業が少しは楽になります。


横板を取り付ける際に必要となる真鍮棒も穴の個数と同じ10本を用意しましたが、同時に全てを使うわけではありません。費用の都合上、長い棒材を使う方が安上がりだったのでスペアとなりそうです。因みにストラディヴァリはウォルナットを丸棒に荒削りした棒を使用していたようです。

今回は木型に書き込まれた文字も模倣しました。文字の線の太さや流れ方から、おそらく「つけペン」で書かれているのだろうと思われます。
この太さの文字を書くためにはよく似た幅のペン先を使うと上手く行きました。事前の練習でボールペンや鉛筆、極細マーカーなどを試しましたが、どれも線が緩んでしまい良い結果は出せませんでした。

雰囲気は出ているでしょうか。実はアッパー・バウツ(ボディの上部)部分にも文字があるのですが、とても不明瞭で読み取ることが出来なかったので省略せざるを得ない状態でした。それ以外は現状に満足しています。
さて、木型の仕上げはブロック取り付け部分の切り落としです。これで漸く木型となりました。木型からブロックを取り外す時の半円の孔もオリジナルの形状を踏襲しました。また丸棒材を挿入する穴の位置も同様なので左右非対称になっています。一番上の穴は中心線から外れていますが、オリジナルを尊重しての結果です。
事前に作っておいた”G”のブロック部分のテンプレートと並べてみました。

背景がワークベンチで味気ないですが、それなりの布地に置くと展示品のようにも見えなくはないかも知れません。。。一度並べてみたかったので大きな充足感を得ました。
次は”PG”に取り掛かります。資料を基にデータを作り、比率などを検証してからの作業となります。この検証作業が悩みの種ですが謎解きのような面白さもあります。
午後には集荷と配送があり、その中の1つにイギリスからの物資が届きました。梱包を開けるとジンジャーブレッドの箱が。。。しかし中には注文していたプライヤーが入っています。
中古のプライヤーです。
その場にある物で梱包するという方法。実は個人的に好きです。新聞紙で包んでいたりその場の空気感が伝わるというか、日常を切り取って共有しているような感じに近いかも知れません。
肝心のプライヤーですが、期待していた通りの品物でした。この金属感がなんとも言えません。同社の現行のプライヤーは改良されているのですが、この金属感が足りないようでイマイチ手を出せませんでしたが中古で見つけた時は小躍りしてしまいました。
程々の使用感が堪りませんが、少し磨き上げると鈍い輝きが現れました。
この実用に耐えてきた姿は新品には無い魅力ですね。ヴィンテージの工具にはいつも憧れのような想いがあります。とは言え骨董と同じく底なし沼なので避けてきたのですが。。今後は気をつけなければなりません(汗)。
気がつくと同じような機能のツールが増えているので、慎重に取捨選択しているところです。必要最低限のツールで洗練された工房にしたいのですが、あると便利というのもツールの魅力なのでジレンマです。
ツールの数を増やしたくはありませんでしたが、このプライヤーは別物です。平行プライヤー、或いはパラレル・プライヤーと呼ばれている物ですが、掴み方に特徴があります。
一般的なプライヤーはハサミのように開いたり閉じたりするので、厚みのある物を掴むと下の画像の左のように力が加わる部分がスポットになってしまいます。
対して平行プライヤーはハサミのような扱い方でバイスのような掴み方が可能になっています、上の画像の左が掴んでいる様子ですが、プライヤーの全面で掴んでいる様子がわかります。支点が5つあって複雑な動きをするので開けたり閉じたりすると面白いです。
磨きの時に、支点部分も分解掃除出来るかと思っていましたがカシメでしっかりと固定されており全分解はできませんでした。そのため開閉の度に残っている錆のざらつきを感じます。
新品を導入しても丁寧に扱ってしまうので味のある使用感を出すのは難しいですが、現状で良い味を醸しているので、その味わいを活かす方向に。
何かを平らに潰したり、指で保持するには危険な物もハンド・バイスとして使用することが出来るので手放せないツールになりそうです。