ヴァイオリン / F字孔が与える音への影響

ヴァイオリンのF字孔は洗練されたデザインでボディのアウトラインと合わさることで華麗さを感じさせられます。ではこのヴァイオリンのF字孔はどのような役割を果たしているのでしょうか。

F字孔の研究
2015年2月10日のMIT Newsという記事で、MITの研究者達はボストンのバイオリンメーカーと共同で、ヴァイオリンのf字孔を通る空気と、10世紀から16世紀の各擦弦楽器(ヴァイオリンの祖先)の円形、半月型、C字型の音孔を通して空気がどのように動くかを分析したそうです。

その結果はというと、
空気の加速において円形の穴よりも細長いf字孔からの方がより速く加速し、その結果、ヴァイオリンへ低い周波数でより強力な音を出すことができていることが解ったそうです。これは音響力学において少なからずともF字孔が音響にパワーを与える要素の1つということでしょう。

F字孔の変遷
アマティ、ストラディヴァリ、グァルネリと名だたる名器はクレモナの代表となっています。
先ほどの研究者の方々はX線やCTといった機器を用いて調査した結果、f字孔の形状と長さが重要なファクターとなっていることが解ったそうです。
細長くなればなるほど表面積を多く取らず、なおかつ音響的に効率が良く理想的だそうです。

 

また、この調査の過程で研究者はアマティ、ストラディヴァリ、グァルネリといった時代の変化の中でヴァイオリンが造られるにしたがい、ゆっくりとより細長いF字孔とより厚い裏板に進化したことを発見したそうです。グァルネリといえば”IL CANNON”が有名ですがこれはF字孔も細長く裏板もとても厚い(裏板の中心部でおおよそ6mm近く)ことで知られていますね。

アマティ、ストラディヴァリ、グァルネリのF字孔を同スケールで描き出しました。比較してみてください。黄色がアマティ、赤がストラディヴァリ、青がグァルネリです。パッとみたところわずかな差しかみられないかもしれません。

これらを重ね合わせてみると。。。

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ヴァイオリンの駒の立つ位置(ストップ)を基準に上記を重ね合わせたもの

グァルネリが縦長で細長いことが解りますね。またストラディヴァリはアマティより幅があります。これはおそらくアーチの形状に関係があることと板の振動を考慮してのことだと思います。F字孔の機能については別記事にてまたの機械にご紹介したい次第です。

話は少しそれましたがF字孔となってからの孔の形状変化についてご理解いただけたようであれば幸いです。では、この変化は意図的なことか、偶発的なことかというとMITの研究者達は各楽器が手工品であるため同じ形状のものが全く同じように作れる訳ではないので人間の耳と経験によって徐々に変化したのでは?と推測を立てているそうです。
MITの研究結果ではヴァイオリンのボディ内の空気振動が木材の収縮と膨張に関係するため、このF字孔の形状だけではなく裏板の強度も関係しているとのことでした。厚みがあればあるほど音を強めるようです。

これまでの研究で以前から知られているヴァイオリンの音色の要素の一つにホルムヘルツという内部容積とF字孔の空気の流れの要素があります。

一般的にヴァイオリン製作においては表板の強度を基準に裏板の音程が高いと強めの音色になりやすく、裏板の音程が低いと柔らかい音色になる傾向があります。
ボディ内の容積と空気の流れ、ホルムヘルツの影響があるということも解っており、表板に対しての裏板の強度(板の音程を考えると限度はあります)も音色に関係するということも解ってはいたのですがMITの研究で実証されたという印象です。

こういった手工品ゆえの誤差に加えてそれぞれの素材/木材の年輪の積み方、密度や質量などが影響され、ボディのアウトラインによってもF字孔の形状はそれぞれ異なります。多くの要素が絡み合ってヴァイオリンが成り立っている訳ですね。

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10世紀から18世紀にかけて擦弦楽器のサウンドホールが変化した過程

上の図からはヴァイオリン以前の時代から孔の形状がどのように変化したのかがお判りいただけます。
音色のために円形の楽器ではボディ(内部容積)が大きいのですが孔の形状が縦長になるに従って楽器のボディ内部容積が小さくなっています。孔の形状が変化するに従い効率が良くなった結果のことではないでしょうか。

豆知識ですが、15世紀から17世紀のC型は丸穴が縦に配置されているため破損しやすいという欠点もありました。
F字にすることで割れやすいという欠点も大きく改善された訳です。
(C字の上半分を反転させF字にした)

今日はF字孔の下書きをし(ストラディヴァリのタイタンというモデルのアトリビュートなので、忠実に)、孔を開けていました。

before
今回はヴァイオリンのFを詳細データに基づいて線入れを
after
ある程度切れれば後はヴァイオリンの板を眺めながら微調整

創ればつくるほどに解らなくなってゆくヴァイオリン製作ですが、知的好奇心が刺激されます。また常に最善をと目指しています。
このような感じでF字孔を考えていた一日でした。

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