ヴァイオリンの素材はスプルースとメイプルですが、これらが素材の状態はどのようなものか、またその準備の様子を見ていただこうと思いました。
ヴァイオリンのアーチの高さ以上の厚みの板材からアウトラインを切り出してアーチを削り出すイメージがあるかもしれません。裏板が1枚板の場合はこのイメージの通りです(稀に表板も1枚板があります)
今回は2枚板の場合のご紹介です。
素材の状態ですが丸太から製材されると薪のような形状をしています。

台形の直方体とも言えるでしょうか。
この木材を2つに割ります(鋸でカットしますが)。

この分割された木材を、本を開くように広げると厚みは中心が高く左右方向に厚みが低くなります。
この製材方法はブック・マッチ(book match)とよばれるものでテーブル家具などをはじめ、楽器だとギターなど広く用いられています。
年輪は中心に対して左右対称となります(どちらか片方が削りすぎの場合は左右対称性は崩れてしまいます)。

開いた状態では接着面が斜めになっていますので、この角度を落として直角にしなければなりません。
上の画像で説明すると③のラインが最終目標です。①と②の角度差を鉋で削り落とすという作業です。
この直角90°の出し方には色々と方法があります。
直角を出すための鉋を使用する方法、鉋を逆さまに(刃が表になるように)固定して、鰹節を削るような要領で削り落とす方法、などなどです。
いずれの方法を採用するとしても底面となる面が平面になっていなければ、いくら鉋を掛けても直角は出ません。ですから最初は底面の平面を正確に作ることから始まります。

洋鉋を使用する場合で簡単な方法としては、直角を出すことができる削り台を使用する方法があります。
洋鉋の台の両側面は直角になっているので洋鉋を横に寝かせて鉋掛けを行うと、板材に対して刃も垂直になるので直角を出すことが出来るわけです。
ただ、これには注意が必要で「鉋の刃の出具合が狂っていない」ことが必須条件です。
これは刃が左右のどちらかに傾いてしまっていると、いくら頑張っても直角は出せないゆえにです。
直角にならずに素材の幅が短くなるばかりとなっては悲しいので、鉋の調整には慎重になります。


上の画像では鉋を横に倒して掛け始める状態です。

洋鉋は金属で重く、洋鉋のエッジが手のひらにくい込むのでグローブがあると痛みは緩和されます。

斜めに角度がついていた箇所が少しずつ垂直になっているのがわかります。

洋鉋を横に倒して描ける場合は力の入れ具合も均等にしなければ直線が崩れてしまいます。その都度直定規で直線を確認します。照明の明かりが漏れていると、そこは直線が崩れているということなので適宜確認と修正を加えてゆきます。

垂直になっているかどうかの確認はスコヤを用いて行います。直線性を確認する時と同様に照明の明かりが見えていると垂直ではありません。ここも全ての箇所で確認しながら修正を加えてゆきます。

垂直になると上の画像のように照明の明かりは遮られます。これが全ての箇所で同様になって入れば完了です。
接ぎ面を準備して接着するだけ、と一言で言ってしまえることですが、両面を揃えることはもちろん年輪の幅など考慮しなければならないのでなかなか難しい作業です。直線、直面、直角平面ともに揃えなければならないので気を遣います。
ですから必要最低限の鉋掛けで済ませなければなりません。
直角を作り終えれば、いよいよ接着です。その前にクランプで締めて仮留めし、接着面の様子を伺います。これで大丈夫のようであれば接着剤(膠)を塗布して接着となります。


上画像の白いアーチはヴァイオリンのアーチの断面図です。
台形の直方体を半分に割ることで板を接ぎ合わせると接着面である中心がもっとも厚くなります。そしてヴァイオリンにはこの形状が好都合で、上の画像のようにアーチを削り出すことが出来るようになります。
接着の際にも少しコツが必要で、十分に擦り合わせながら接着しなければ隙間が出来てしまいます。擦り合わせながら位置を合わせつつ、余分な接着剤を外に押し出して接着面が真空状態で吸い付くように接着します。

これで乾燥を待てば、板材の準備が終わります(底面の面出しなどすることはまだありますが)。
意外と体力が必要になるので積極的にしたい作業ではありませんが、この作業をしなければ何も始まりません。表板と裏板、結構疲れます。一枚板の裏板であれば、この接ぎ作業は柔らかく楽に加工できる表板だけですみます。
ヴァイオリンの板材の準備を見ていただきましたが、何かご質問などありましたらお気軽にご連絡ください(笑)