やや暖かい日差しを感じながらもストラディヴァリのロング・パターン / ”ヨアヒム”1698 のアーチングに時間を費やしていました。
前回、更新した時はエッジの厚み出しと粗彫りをした状態でしたが、時の流れと同じように少しずつヴァイオリンの表板/裏板共にアーチがつけられてゆきました。


丸鑿での荒削りからサム・プレーン(指鉋 thumb plane)に持ち替え、その後、スクレイパーでアーチを作ってゆきました。
鉛筆で目安をつけながら、その鉛筆跡を消すように削ってゆくと次第にアーチが現れてきます。

表板と裏板です。
アーチの膨らみ方が表板と裏板では異なっていることにお気づきになられたでしょうか。
表板は振動という「動」を司り、裏板は振動を抑える「静」を司っています。


製作手順は何を主体とするかによって変わったり、〇〇派で違いがあったりするということをブログで書いたことがありましたが、現代では一般的にエッジの厚みを出し、その時点でパーフリング(黒/白/黒の薄い板状を全周囲に埋め込む象嵌)を施してからアーチに取り掛かるという順番が好まれているようです。
どの方法にもメリットもありますしデメリットもあるので、全員がこの順序という訳ではありません。
今回は木釘を用いた板の接着を行いたいので、パーフリングは表板/裏板をリブに接着してから施すこととなります。
木釘は板をリブへ接着する際にズレを抑える役割があります。楽器ごとに木釘の場所は異なっていますのでパーフリングの内側にあったり、ネック側とエンド側で左右非対称に打たれた楽器もあります。それに木釘の太さも楽器ごとに太いものから細いものなど様々です。
色々なパターンがありますが、パーフリングの内側に無造作に木釘が打たれている楽器も味わいがありますね。


この”ヨアヒム”1698も木釘が用いられています。
上画像の赤い丸で囲まれた部分が木釘が打たれている部分ですが、板の接ぎ合せ上のパーフリング内側に半月状に何かの跡が確認できるかと思います。
これは木釘を打ってから、その木釘の半分がパーフリングで覆われているということが伺えます。
このように木釘が半分隠されるようにパーフリングを施すには、パーフリングを施してからでは出来ません。
パーフリングを先に入れると、どうしてもパーフリング内側に無造作に打つか、木釘を用いずに接着するかという方法を採用することとなります。
つまり、この”ヨアヒム”1698はリブに表板/裏板を木釘を用いて接着し、その後にパーフリングを施したということを意味しています。
(※エッジの厚み出しを終えた後、フェイクの木釘を入れてパーフリングを施すという方法もないわけではありません、この方法であれば木釘を用いずに接着しても、最後にパーフリングを入れたように見せることが出来ます。)
この件もあり、今回はエッジの厚みを出した時点ではパーフリングを入れていない次第です。
今後はアーチが決定し次第、裏側を彫り込み、表板/裏板のチューニングを行う予定です。ヴァイオリン製作では一番好きな行程なので、今からワクワクしています。
ですがまずはアーチです。様々な角度から確認しながらアーチングを施しても、時間をおいて眺める度に「これで良いか?」と悩みが出てしまいます。そしてこの悩みは尽きることがありません。
「品」というのは本当に難しいものですね。機能性も考慮しなければならないので尚更です。