日常生活で湿度を意識することはあまりないかもしれませんが、梅雨時や夏では肌がベタつく感じがしたり、冬は喉の調子で空気の乾燥を感じることがあると思います。
お部屋に温度計や湿度計があればなんとなく目にすることも。
今回は湿度についての簡単な説明と湿度を計測する湿度計についてです。
楽器ケースに備え付けられた湿度計について、「針が動いていない気がします」としばしば質問もありますので、湿度計の調整についても記載しました。
相対湿度と絶対湿度
相対湿度
ある温度の空気中に含みうる最大限の水分量(飽和水蒸気量)に比べて、どの程度の水分を含んでいるかを示す値で<%RH>で表します。一般的に湿度を表す時に使用します。(*RHはRelative Humidityの略)
この相対湿度と異なった観点から湿度を計測したものが絶対湿度です。
絶対湿度
湿り空気(一般に存在する空気)中の乾き空気(全て水分を含まない空気)1kgに対する水蒸気の重量割合を示し、<kg/kg’>で表します。
絶対湿度を基に、より正確な湿度計測または管理をしようとすると精密な乾湿庫が必須となりますので研究室はまだしも、一般家庭では無理があると思いますので必然的に相対湿度を基にすることとなります。
温度
温度によって含むことの出来る水分量が変わる為、湿度にも大きく関係します。
温度が上がれば空気中に含むことの出来る水蒸気量も多くなりますので、絶対湿度が同じでも、相対湿度は変わってきます。
つまり湿度を一定に保ちたければ温度も一定に保つ必要が発生してしまうわけです。
同じ部屋でも湿度計を設置する場所で湿度は異なります。空気の流れが温度と関係しているので部屋の中心、角、物陰や高い場所、低い場所で差は現れます。
これら両方をコントロールすることは至難の業です。
ただ管理する空間を限定すれば、一つの部屋という空間でコントロールするよりも、より小さな密閉空間の方がコントロールは容易です。
湿度計
湿度には相対湿度と絶対湿度があり、それらは温度と関係があるのだなということが解っていただければ十分です。ここからはお馴染みの%表示である相対湿度が前提となります。
では、湿度を計測する湿度計にはどのような物があり、どのような仕組みになっているのかに移ります。
アナログ湿度計と原理
時計のように針の動きによって指された数値を読み取るアナログ湿度計というものがあります。これは2種類あります。
・バイメタル式湿度計
原理は温度計と同じで、金属(真ちゅう)に湿気を吸いやすい、収縮率の異なる感湿剤を張り合わせ、 湿度変化によって曲がるようにゼンマイ巻になっています。
その時の感湿剤の変化によってゼンマイが巻いたり戻ったりした動きで針が動いています。
・毛髪湿度計
昔から採用されている方法ですが、人の髪の毛の湿気によって膨らむ性質を利用して、その変化量を計算して湿度を表示しています。
一般的なアナログ湿度計の裏面には調節ネジがあり、調節(キャリブレーション)することができます。
デジタル湿度計
・デジタル湿度計
デジタル式では、くしをかみ合わせたような電極の上に感湿剤を間に挟み込まれており、感湿剤が湿気を多く含むと電流が流れやすく、乾燥すると流れにくくなるのでその時の流れやすさの抵抗の変化で計っています。
このタイプの湿度計には各種のボタンがついており、最大湿度と最小湿度が記録される機能を持たされているモデルもあります。やや高価になりますが、調節(キャリブレーション)用のボタンがついているモデルもあります。多くはついていませんので調節(キャリブレーション)をした際に基準値との差を付箋などで記しておいてデジタル数値を読み取ったのちにそのメモの数値を加減して読み取ることとなります。また商品ごとに測定誤差が記載されていますのでその点も勘案します。もちろん、誤差の小さい商品ほど高価になります。
アナログ式とデジタル式、どちらを選ぶか
例えば、ホームセンターなどで湿度計を販売している棚を見渡すとどの湿度計もそれぞれ指している数値が微妙に異なっていますし、なかには大きく異なる数値を指しているものもないわけではありません。
これはアナログ式の仕組みによるズレであったり、置かれている棚の各場所の空気の流れ方や温度の違いも要因となっています。
購入の際には同じような数値を指している湿度計を選ぶということがポイントとなります。
(アナログ式を購入後に調節(キャリブレーション)を行うとしても、同じような数値を指している湿度計の方が内部のゼンマイの状態が良いと感じます)
またアナログ式はゼンマイ式で針がゆっくりと動くのでなので、急な湿度の変化に関しては一定の時間が経たなければ反応しません。
これに対してデジタル式はちょっとした変化をも捉えて即時に表示するので、環境ごとの湿度の変化を素早く確認することができます。
※楽器ケースに付属している湿度計
一般的な楽器ケースの蓋の内側(弓を保管するスペースの面や楽器の横になど)にアナログ式の湿度計が取り付けられていることがありますが、なかには接着されていて取り外せないものもあります。取り外し可能なものは定期的に調節(キャリブレーション)できますが、取り外せない場合は調節(キャリブレーション)ができません。つまり飾りとなってしまいますのでその湿度計から湿度を判断することは諦めざるを得ません。湿度に気を配りたい場合は追加でコンパクトな湿度計を固定させる必要があります。
調節(キャリブレーション)の方法
相対湿度を計測する機械の概要はご理解いただけましたでしょうか。近年はアナログ式よりデジタル式が安価に入手できる場合もありますのでお好みで選択されれば良いかと思います。
とはいえ調節(キャリブレーション)の手軽さ、即時表示の点においてデジタル式が便利だとは感じています。
ただ、どちらの湿度計を使用するにしても調節(キャリブレーション)は定期的に必要となります。
計測機がズレていては判断を誤る要因の一つとなってしまいます。
調節(キャリブレーション)の方法の一つに「塩」を用いたものがあります。これは「飽和塩法」と呼ばれ、多くの校正現場で用いられている手法です。
「飽和塩法」は、飽和状態まで塩を溶かした水(飽和塩水)を密閉容器に入れておくと、決まった湿度がつくれるという原理を用いた方法です。目的とする湿度状態によって「塩」ではなくその他の物質を用いることができます。
例)塩の種類と相対湿度(25℃)と用途
- ふっ化セシウム(CsF)
湿度3.4%(25℃での相対湿度) - 臭化リチウム(LiBr)
湿度6.4%(25℃での相対湿度) - 塩化リチウム(LiCi)
湿度11.3%(25℃での相対湿度) - 酢酸カリウム(CH3COOK)
湿度22.5%(25℃での相対湿度) - 塩化マグネシウム(MgCI2)
湿度32.8%(25℃での相対湿度) - 炭酸カリウム(K2CO3)
湿度43.2%(25℃での相対湿度) - 臭化ナトリウム(NaBr)
湿度57.6%(25℃での相対湿度) - よう化カリウム(KI)
湿度68.9%(25℃での相対湿度) - 塩化ナトリウム(NaCI)
湿度75.3%(25℃での相対湿度) - 塩化カリウム(KCI)
湿度84.2%(25℃での相対湿度) - 酢酸カリウム(K2SO4)
湿度97.3%(25℃での相対湿度)
これらの物質のうち、手軽に使用できるのが塩化ナトリウム=塩・食塩です。この物質の場合、25℃の状態で密閉容器の中では約75%の湿度が発生します。一般用途の湿度計であれば厳密ではなくても良いと感じられます。むしろ厳密には出来ないかと考えられますので程々に調整できれば良いと考えてください。
過ごしやすい室温の状態で密封容器に溶けきらない程の食塩に水を加え、そばに湿度計を置きしっかりと密封して24時間ほど放置しておけば良いという方法です(容器内の湿度を安定させるため)。
「飽和塩法」をこれまで行った経験では温度によって大きく左右されるため、25℃の頃合いを見計らって調節(キャリブレーション)を行うと良いと考えています。
上の画像は左が食塩の状態で右が用意した食塩が浸るくらいまで水を加えたものです。溶けきらない状態であれば十分です。

今回、調節(キャリブレーション)する湿度計です。上の湿度計はキャリブレーション機能がついていないので差を付箋で記しています。読み取る際には表示されている60%に1%を加算して61%と読み取ります。上の湿度計は誤差+-5%で下の湿度計は誤差+-1%の商品です。この誤差を勘案すると概ね同じ程度の湿度を読み取っていると考えて差し支えないと思われます。
今回はジップロックを使用しましたが、準備した食塩水と湿度計が収まるタッパ容器があればより安全です。ジップロックを使用するメリットは外側からボタン操作が可能という点なのですが、食塩水を入れた容器が倒れて湿度計に掛からないように気をつけてください。

空間を広げるため、支柱を立てています。密封容器の内容積によって湿度が安定する時間は変化しますので24時間を目安にすると無難です。

十分に時間をおいて表示を読み取ります。上の画像からは77%+1%で78%の湿度と表示されていることが読み取られます。ただ温度が25℃に比べて約3℃高いので、78%という湿度は標準的だと思われます。
この時点で75%から大きく数値が異なっていれば調整する必要があります。アナログ湿度計の場合はジップロックの隙間から手を入れて裏の調整ネジを使用して調整します。タッパ容器の場合は出来るだけ短時間で調節を済ませてください。
デジタル式でキャリブレーション・ボタンが備わっている場合はジップロックの上からボタン操作して75%に設定します。それ以外の場合は僅かな差であれば付箋などで加減を記します。上の画像が25℃の状態で測定したものであれば75%に合わせるためには-2%が必要です。付箋に-2と記して貼り付け、実際に湿度を読み取る際には表示されている数値から2を引いた数値で読み取ることになります。なおデジタルで大きく差が現れている場合は電池の交換も考慮してみてください。
以上が調節(キャリブレーション)の方法ですが、アナログ湿度計はバネ式のため寿命があります。同様にデジタル湿度計も電池の寿命に加えて基盤の寿命もありますので、何れにしても信頼性が低くなれば交換することが望ましいです。
最後に
楽器ケースは密閉性が高いものではないものの、湿度を溜め込む傾向にあるように感じます。楽器にとっての悪影響は急激な温度変化や湿度変化なので、湿度計は目安として捉えてください。(おかれている環境に馴染むためにも)日常の演奏が楽器の健康状態を保つことに繋がります♬