久々のブログ更新です。
昨年末は次から次へと電子機器が寿命を迎えてしまい、総入れ替えをしました。かれこれ10年は使えたので、現在の一般的なサイクルから考えると長持ちした方だと思いたいものです。
負のスパイラル(近況)
まずはラップトップ。節約の為グレードを下げてみたのですが、実際に使用してみると明らかに役不足。結局、返品が可能な期間の間にほどほどのグレードのラップトップに交換してもらいました。返品交換は初めてでしたが、本当にありがたいサービスで助かりました。
次にカメラ。これまで愛用していたのは一眼レフなのですが、ミラーの動きが悪くなってしまい、どのシャッタースピードでも3秒ほど時間が掛かるまでに悪化してしまいました。三脚を使用してリモコン·レリーズが中心の使い方なので我慢していましたが、ラップトップのモニターも以前より鮮やかになったので、カメラも新調した次第です。
修理を相談したのですが残念ながら部品が無いとの事だったので、フルサイズのミラーレスにしてみました。
長く使いたいので、物理的な故障が軽減されることを願うばかりです。
そして電話。これはラップトップを替えた時、新しいiPhoneはカメラが良くなったと聞いて悩んだ結果、変えることにしました。
この時はカメラを新調する前だったので、もしかしたらカメラを新たに買わなくても良いかも?という下心もありました。しかし、カメラは役不足だったので、期待はずれでしたがカメラとのWi-Fi接続やラップトップとの連携も向上しているので思い切って替えて良かったという印象です。
昔は新しく何かを購入する時はワクワクしていたものですが、「予算と必要性を考えながら選ばなければ」と考えるだけで億劫になり、寿命を迎えてから重い腰を上げたのでトータル1ヶ月ほどは不便な日々を過ごしていました。
こんな感じで身の周りがようやく整ったので、製作にも一段と力が入ります。
理想的な木型を求めて
ストラディヴァリの遺したとされる木型が現存しており、レディ·ブラント”1721″で使われたPGと呼ばれている木型のレプリカを作って製作を進めていたのですが、アウトラインに違和感があり、どうしても気になったのでストップしました。
木材は貴重なので「続けるべきか? 気持ちを切り替えるか?」と悩むこと1ヶ月。良い楽器を作りたいので妥協を重ねることはやめました。
その決心のきっかけの1つが「より正確な資料の入手」です。
出来ることなら現物を手に取り、3Dスキャンでデータを手に入れたいところですが、ありそうでないのですね。現代の技術であれば非破壊で出来るような気がするのですが、どうなのでしょうか。
これまでにもストラディヴァリの木型の採寸データは公表されていたのですが、どれも微妙に数値が違っているので「採寸する人によって違う」ということを実感します。
今回手に入れた、「現状では信頼性の高いと思われる資料」を基に木型の製作を進めて、足元を固めようとしています。資料には分数からヴィオラまで含めて16種類のデータがあるのですが、使えそうな木型を選ぶと15種類。その中から10種類まで厳選しました。もちろん”PG”も含まれています。
それらの資料をラップトップに取り込んで、CADを使って補助線や比率の検証を重ねて木型を作るテンプレートが完成しました。
こちらは”G”と呼ばれる木型で”PG”より3mm程ボディが長くなっているモデルです。この”G”はボディの比率がしっかりとしていて理想的なボディの形状だと感じます。

ヴァイオリンのボディの比率がどのモデルも同じなら、全て拡大或いは縮小されたものとなるのですが、微妙にアレンジされているのでストラディヴァリの楽器には多様性があります。「何を考えて何処をアレンジしているのか」という視点で見ていると時間が経つのはあっという間で、気がつくと想いを馳せています。
ストラディヴァリの木型の素材
さて、これまでストラディヴァリの木型の素材はクルミ材ということは知っていましたが、手に入れた資料によるとウォルナット(学術名: Juglans regia L)ということが分かりました。これまではクルミの板材を機会がある毎に物色していたのですが、ストラディヴァリの木型の色合いがクルミ材とは微妙に違うことに違和感を覚えていたので(経年変化もふまえて)、ウォルナットと知って府に落ちました。
詳細を見てみましょう。
ウォルナット
学名 : Juglans regia
クルミ科(Juglandaceae)クルミ属
和名・商業名 : ウォルナット
英名・商業名 : Walnut
別名、現地 : 代表和名「ウォルナット」、代表英名「Walnut」。イングリッシュウォルナット、カシグルミ、クルミ、ペルシャグルミ、マウンテンアッシュ、ヨーロピアンウォルナット、Algarroco、Common Walnut、English Walnut、KernelPeach、Persian Walnut
樹種 : ウォルナットという名をもつ材は多いが、本物はクルミ属(Juglans)のものだけである。その中で重要なものはヨーロピアン・ウォルナットとアメリカン・ブラック・ウォルナットの2種。
つまりクルミ科クルミ属なのでストラディヴァリの木型の素材はクルミ材ということは広義で同じです。
クルミ
クルミ板材として流通しているものは学術名Juglansのようです。多くはオニグルミという木の木材で、これも英名ではウォルナットになるのですが、国産 (近年では中国産) の板材が「クルミ材」として流通しているようです。欧米のウォルナットよりも明るい色合いでブナやナラのような色合いです。同じウォルナットですが欧米産と種が違うので混同しないようにクルミとしているのだと思います。
製材時点では、クルミ(国産ウォルナット) < ヨーロピアン・ウォルナット < ブラック・ウォルナットの順で色合いがダークになります。
ストラディヴァリは木型の材料としてヨーロピアンウォールナットを愛用していたようです。乾燥した材であれば狂いが少ないという利点があり、木肌や木目の美観からストラディヴァリの時代でも高級家具などに用いられている材なので、彼が木型に重点を置いていたことが伺い知れます。
家具としてのウォルナット
ちなみにストラディヴァリの現役時代である1660年から1720年にかけては、ヨーロッパ市場でウォールナット種の家具製品が大人気でヨーロッパ家具の歴史では「ウォルナットの時代」と呼ばれるほどだったようです。
ヴァイオリン用の木型はこのウォルナットが用いられていますが、分数にはポプラ材が使われていたり初期のヴィオラ、グスタフ・マーラー”1672″の木型は柳材(ウィロー)で作られています。ちなみにこのマーラーは裏板がポプラで作られており、現在はアントワン・タメスティが使用しています。
このヨーロピアンウォールナットですが、木型を作れるサイズの無垢材が入手困難であるのが現代の実情です。一般的に流通しているのはブラック・ウォルナット 。しかも簡単に入手できるのは幅10cm未満で、これだと接ぎ合せをするしかありません。
一方で家具用(主に一枚板のテーブル材)のブラック・ウォルナットは十分な幅があるのですが、1枚数十万円の相場です。。。そして、、ヨーロピアン・ウォルナットとなるとさらに桁が増える場合も。。
中心で接ぎ合せ?、合板で両面にウォルナットの化粧張り?、と悩みましたがどうしても無垢材を使いたいと考えてしまいます。
そして時間はかかりブラック・ウォルナットであるものの、木型を作れる大きさの無垢材を入手出来ました。現存しているストラディヴァリの木型と比べると僅かにダークな色合いですがこれには秘密があるのです。
豆知識
一般的に木材は経年(紫外線、日光)で黄変しますが、ウォルナットは反対に退色してゆき、明るい色合いに変化してゆくのです。面白いですね。
ダークな色合いを保ちたい場合は日光に当たらないようにしなければならないので、ウォルナットの家具を愛用されている場合は置き場所にご注意を。
今作っている木型も、数十年後には現存しているストラディヴァリの木型と似た色合いになるかもしれません。
このような経緯で、今は木型の製作に集中しています。まだスタートしたばかりの「ストラディヴァリ木型コレクション」プロジェクトなので、ウォルナット材の製材からです。




私自身が素材(木材に限らず、革や角材、骨材)が大好きで、素材のままを見ているだけで幸せになれます。自然の賜物だと思うと言葉を失います。
素敵な素材なので、木型への情熱もさらに膨らみました。今回はストラディヴァリの筆跡も再現したいと思っています、木型に書き込まれた文字をアウトライン化しましたので胸が高鳴っています。


CADの利点は小さなものもかなりの拡大で緻密にデータを作れることですね。文字のアウトライン化は時間がかかりましたが、かなり忠実なデータが出来ました。日にちを開けて微調整の繰り返しがまだまだ続きそうです。

文字の再現はインクの滲み具合が予測できないので1つの関門です。
板材の面出しと一緒に
かれこれ10年使ってきたワークベンチ。気がつくと反りが生じて平面が崩れてしまっている事に気づいたのが数年前。
悪い癖ですが色々なツールを置いてしまうので、作業スペースも狭くなりがち。新しく増設したいと思いながら、「増設出来たら今のワークベンチはニス作業などのサブにしよう」と思いつつ、騙しだましで使っていました。
しかし、毎度のことながら反りが気になってしまうので、板材の面だしついでに思い切ってワークベンチも反りを直して平面に整えました。大きなワークベンチではありませんが、それなりの面積があるので、なかなか取り組もうと思えないのです。
やると決めたら心も前向きになり、新品同様に蘇りました。やはり違いますね。何が違うかと言うと綺麗なワークベンチを前にすると気持ちが全く違います。もっと早くにしておくべきでした。
天板の厚みはまだまだあるので、生涯に渡って使えそうです。

工房からのお知らせです
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