サウンド・ボックス A.Stradivari Forma “G”

6月も、あっという間に残り3日となります。

もう半年が過ぎようとしていることを考えると時の流れの速さに驚いてしまう今日この頃ですが、残りの半年をどのように活かすことが出来るのか期待もあります。

表板と裏板の板厚

 ヴァイオリンの表側と裏側のアーチ状の膨らみが完成し、ひと段落つくのも束の間、次は内側を彫り込む事で板の厚みを整えてゆく作業となりました。

板全体を均等な厚さまで荒削りするのですが、全体が薄くなってしまうと音響的な調整が不可能になりますし、厚みがあり過ぎても、その後の作業時間が増えてしまうので荒いものの慎重さが必要となります。

裏板内側の荒削り

表板と裏板の厚みは異なるのですが、木材によってその厚みも変ります。難しい部分ですが、ヴァイオリンを作るクライマックスという事も感じながら毎回新鮮な気持ちになれる場面ではないでしょうか。

バスバー

表板の内側を削り込んでからはお馴染みのF字孔を開けます。ここもクライマックスだと感じつつ、この文章を書きながら「何時でもクライマックス」だなと我ながら恥ずかしくなってしまいました。

上孔と下孔からスタート

孔を開ける部分に小さな孔を開けて、最終的な形に整えてゆきます。

綺麗な孔が開きました

この孔をスタート地点として両方向からF字に繋げるように空間を作ってゆきます。もちろんこのF字孔は美観や飾りではなく音響的にも重要な役割を持っていますので考慮しなければならない点は複数あります。

それらのバランスが取れるよう慎重にデザインを決めているので、一度に削り過ぎないようにと慎重に進めます。

Fの開いた表板とリブ

このF字孔は後に微調整する余地を残し、もう一つのクライマックスであるバスバーに取り掛かります(またしてもクライマックス)。

削り込んだ内側にピッタリと隙間なくスプルースの板材を接着します。これが後にバスバーとなります。

バスバーの接着

バスバーも音響的に重要な役割を担っているので、これも御多分に洩れず配置や高さや厚み、そして形状など考えなければならない事が多いパーツです。一般的な取付位置はボディの特定の部分の幅を基準に算出できるのですが、使用する駒やボディのサイズ、これから取り付けるネックなどの兼合いで位置を決定します。

普段、単純な加工をしているとヴァイオリンを作るのはパーツを作る事と感じてしまう事も度々ありますが、作り上げたパーツを音響的にバランスが取れるように組み合わせると充実感があります。実際に作ったり、加工したりするのは一つ一つのパーツではありますが、それぞれのパーツが役割や特性を持っていて、それらが調和するように作るという部分には深みを感じます。

そしてサウンド・ボックスへ

これまで作ってきたパーツが一つに組み合わさる時、サウンド・ボックスとしてボディが完成します。

裏板、リブ、そしてバスバーの付いた表板

リブから内型を取り外し、内型に接着されていたブロックを綺麗に整形してライニングも仕上げます。内型からライニング、板の接着などの順序に関しては多様な方法があります。

表板側
裏板側

一つの形となれば、何時も嬉しいものです。ただ、ここの時点では形にはなっていますが、音響的なキャラクターは決まりつつあるものの、調整は始まったばかりとも言えます。

次はネックとスクロール、指板に取り組もうと思い、製材したネック材を糸鋸盤に掛けていると少し負荷が掛かったようでヒューズが飛んでしまいました。新しいヒューズが無ければ糸鋸盤は動きません。

長年使ってきた糸鋸盤で特に不満はないのですが、新調したいという気持ちもチラリ。。そんな誘惑に負けそうになりましたが設置場所の都合上から現在の糸鋸盤を継続して使う事にしました。ヒューズはホームセンターでも売っているのですが、オンラインでまとめ買いすると格安で入手出来る事が分かりましたので尚更です。

お知らせ

ボガーロ&クレメンテのフィッティングが入荷予定です。今回はペルナンブーコとココボロが到着予定となります。どちらも装飾はアイボリー(キャメル骨材)でペグはハートです。ペルナンブーコの顎当てはグァルネリとウイングの2種です。ウイングの顎当てはエレガンテな形状なのでご期待ください。ご予約などのご希望がございましたら下記のフォームからお知らせください。

追伸

2016年にヒラリー・ハーンが来日公演で演奏したアントン・ガルシア・ガブリルの「無伴奏ヴァイオリンのための6つのパルティータ」のアルバムが先月発売されました。ヒラリーがアントンに作曲を依頼し、そのコンセプトは現代の無伴奏ヴァイオリンとのこと。このパルティータにはバッハの無伴奏をコンセプトにしていて、バッハの時代ではなく現代という時代における無伴奏パルティータを意識したという楽曲です。

早速、日々この楽曲を聞いているとヒラリーの技量とアントンの程よい現代感が新時代を感じさせられています。バッハとは対照的なのですが重音や雰囲気、音色の伸びやかさにバッハを感じたり、音の動きはとても現代的でエッジも効いています。

私も良くバッハが今の時代に来たらどんな音作りをするのか無想する事があります。ヒラリー・ハーンはクラシック界の女王でありつつ、現代音楽にも熱心で、常に未来を見ているのではと思わせられます。

時代はデジタルですが、レコードを活用できる環境であればLP盤をおすすめします。

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