ヴァイオリン・キットを製作

久しぶりのブログ更新となりました。日常について大きな変換点を迎えております。皆さまにおかれましては無理のない範囲で活動し、発想も柔軟に、そして何よりも健康第一でお過ごしできますこと心より願っております。

文章をじっくりと練りあげる時間を作ることが出来ず、本ブログと趣味のブログも更新が止まっておりましたが、こちらは普段通りにメンテナンスや毛替え、そして製作の日々が過ぎてゆき今に至ります。

冒頭にも書きましたが、COVID-19については心底驚くばかりです。「緊急事態宣言がなされる程の事態」という歴史に残るであろう社会情勢を経験することは思いもしませんでした。日本のみならずほぼ全世界で混乱の渦中にいるわけですがウイルスは目に見えないものですので不安は募る一方です。そしてCOVID-19について感染するか否かという不安もさることながら、現実と直視せざるをえない事が日常生活ではないでしょうか。

自分自身ではオーケストラの練習が中止になり始めた頃から生活が変わり始めました。もちろん今となっては公演も中止となり、練習もしばらく中止となっています。

新作楽器の展示会も中止となり昨年仕上げたストラディヴァリ「内型G」モデルも日の目を見る事がなくなりました。もともと工房に籠りっぱなしですが気分転換に先輩方の工房へ遊びに行くことも控えるようになり孤独も感じ始めています。そのような場合は電話などで近況報告や世間話に花を咲かせるわけですが話題はもっぱらCOVID-19です。

また世界各地でも同じだと思いますが、各国からの仕入れが滞るようにもなり徐々に緊迫感が出始めています。発送されてはいる様子ですが、国内に荷物が到着しないようで何処かで足止めされている模様です。新たに発注しなければならないのですが、流通の目安が判らないと安心して発注出来ないもどかしさや不便さを実感しています。

私が子供の頃、赤/白/青の縁取りがあるエアメールの封筒が主流だった頃、海外からの手紙や小包は船便が中心だった頃をふと思い出し、今の時代が如何に便利になっていたのかを思い知らされました。今やEメールと航空便の時代で書類のやり取りは時差を勘案しても2日あれば済みますし、早ければヨーロッパから3日で到着ということもありました。大きな変化です。

演奏をお仕事とされている方々とお話ししていると更に厳しい現実が伝わります。この部分は話に聞いている以上に辛い事態になっていますので私が何かを話すことは出来ませんが、ある方の言葉が心に残りました。

まだCOVID-19の影響が出始めた曖昧な時でしたが、思いもよらない時間が出来てしまった事を嘆くのではなく、素通りしていた自分自身と向き合うきっかけを与えられたと思い出来るだけポジティブにという言葉です。

生活様式の変換点となるのか、それとも無事に収束しこれまでの日常に戻るのかは分かりませんが、今という時間は流れる一方に違いはありませんので出来る事を、そして出来なかった事にも取り組みたいと考えている次第です。

ヴァイオリンの製作キット

タイトルを読み、目(耳)を疑うかもしれませんが文字通りキットを作る経験を得る事が出来ました。もちろん自分でも想像した事がありません。

ヴァイオリンを作るキットの存在は十分知っていましたが、実際に手にする事はありませんでしたので自分自身でも興味津々であり、とても新鮮な気持ちと初心を振り返る良い機会となったわけです。これもポジティブに考えるとCOVID-19が猛威を奮っていたからこその出来事だと思います。

あたかも私が作ったかのような書き出しでしたが、製作したのはヴァイオリニストです。やはり幸か不幸か予定外の時間が出来てしまい、ふと楽器に対する理解を深めたいとのことからキットを入手なさったとの事で、その製作のお手伝いという形で一緒に経験させていただきました。

とても良い機会でしたので、お写真の掲載もご快諾くださりましたのでブログの記事にさせていただきました。

キットを完成させるためには専門ツールが必要になる場面もありますが、ホームセンターなどで入手出来るもので簡易的に代用する方法も掲載しますので、ご参考にしていただけますと幸いです。写真がなく文章での説明となりますがご了承ください。

ホワイト・ヴァイオリンになるまで4日掛かり、初めての連続での疲れやお車で通われた事も大変だったと思いますが、怪我もなく無事に完成出来た事が何よりです。

まずはキットの構成確認です。このキットには次のものが含まれていました。

  • ヴァイオリン・ケース
  • ペグと指板が仮接着された荒削りのネック
  • パーフリングの溝が彫られ、テールガットが載るサドルが接着されF字孔が切られた表板
  • パーフリングの溝が彫られ、リブが接着されている裏板
  • パーフリング材4本(ストレート)
  • 8割がた整形済みのバスバー材
  • 魂柱立て
  • 魂柱材
  • グァルネリタイプの顎当て
  • アジャスター組込みタイプのテールピース
  • エンドピン
  • 弦4本(E/A/D/G)

魂柱立てが付属している部分が嬉しいポイントではないでしょうか。専門的なツールを手に入れるとそれだけで気分も高揚するのではないでしょうか。

このようにキットの構成を見ると作業内容が分かります。順序としては色々と前後させる事も出来ますが、出来るだけ最短で効率よく作業性も勘案し、次の内容に予定を立てました。

  • 表板と裏板へのパーフリング象嵌
  • ウイングのフルーティング
  • 表板と裏板の厚み出し
  • バスバー整形と接着
  • ラベル製作と貼付け
  • 完成した表板の接着
  • スクロールの整形
  • 指板の整形
  • 完成したボディへのネック組みつけ
  • ネックの整形
  • ニスの下処理
  • ニスの下地作り
  • ニス
  • セットアップ

リストアップすると結構な作業量に見えますが、それぞれの作業は仕上げるだけとなりますので気楽に進められます。キットの良い点ではないでしょうか。

製作スタート

パーフリング

このキットの難所はおそらくパーフリングだと思います。溝は既に彫られているので象嵌するだけなのですが、付属のパーフリング材がストレートなので必要な長さに分割し、曲げる必要があります。これは曲木のアイロンがなければ出来ない作業です。真っ直ぐの状態を少しづつでも曲げようとするとポキっと折れてしまいます。ここではベンディング・アイロンを使用しました。

ベンディング・アイロンの代用は「半田ごて」を利用する事が出来ます。半田ごての軸は細いですが、力加減によってはこのまま利用出来ますが求める便利さに応じてブラス製の水道管を半田ごてに差して固定すれば好みの太さに調整出来ます。熱を扱うので火傷や火元には要注意です。この点を勘案して半田ごてを作業台にクランプで固定して使用します。

熱源を確保できても、素手で曲げる事は出来ないので0.5mm厚くらいのアルミ板を長方形に切り出して熱源に当てたパーフリングの押さえにすると良いですがアルミ板も熱を持ちますので持ち手部分に革を貼ったりなどの対策が必要です。

パーフリングを切って、曲げて切って合流部分を合わせながら全体にパーフリングが入りました。コーナー部分の合流を合わせるために調整していると長さが足りなくなり、いくつか作り直しながら何とか完成です。

よく戴くご質問の1つですがパーフリングは線を描いているわけではありません。溝にパーフリングという別部材を埋め込む事で表板に走っている年輪をパーフリングの内側と外側に分けています。これによって楽器の端(パーフリングの外側)を何かにぶつけても亀裂はパーフリングで止まる可能性が高まります。パーフリングがなければ端から入った亀裂が中心部まで伸びる事となります。このような役割を持ちながら一方で装飾としての役割も果たしています。

古い楽器で割れの修理がある場合、高確率でネックの付け根やテールガットが載るサドル部分からの割れであり、この部分はパーフリングが途切れている部分でもあります。

瞳の輝きが物語っているように言葉では表せない達成感です。難しい作業ですが、綺麗に埋まると嬉しさはひとしおです。
F字孔ウイング部分のフルーティング

表板のアーチはほぼ完成していましたが、ウイング部分のフルーティングが未整形でしたので、スクレイパーを使用して各アーチに揃えてゆきます。

スクレイパーは焼入れされた鋼を好みの形に切り出し、エッジに刃付けしたもので、木材の面をスクレイパーの形通りに削る事が出来るツールです。これは削りたい形のサンディング・ブロックを準備し、好みの番手のサンドペーパー を貼り付ける事で代用できます。

なおスクレイパー同様に仕上げ用のツールなので荒削りは丸蚤や鉋を使います。

アーチを観察しながらフルーティングを仕上げてゆきますが、ここでは光と影も判断の助けとなります。
板厚の調整

キットの場合ここは必要不可欠ではなく、そのままでも良いと思います。厳密に調整するとなれば裏板を外してと大掛かりになるので、ここでは可能な範囲で厚みの調整をしました。

アーチのある板の裏面を削るので、平面に置くとグラグラして不安定であるばかりかアーチの損傷にも繋がりますのでクレードルという加工台に固定して必要箇所を削り込みます。

クレードルは座布団で代用できます。もちろん完全に固定は出来ないので削る手と反対の手で常に固定しなければなりませんが、アーチへのダメージを防ぐ事が出来ます。

荒削りは指鉋が適していますが、キットの場合はある程度削られているのでスクレイパーで気長に進めると失敗を避けられると思います。

裏面で削りたい箇所を鉛筆で塗り、その部分を消しゴムで消すようにスクレイパーを掛けて最終的な厚みを目指してゆきます。

裏面は湾曲しており、年輪や繊維の方向が入り組んでいますので、鉛筆で示した場所を綺麗に削るためにはどこから削り始めるか考えながらの作業です。
削り込みの際には力加減も考慮に取り入れます。
ひと削り事に板の柔軟性や重さ、厚みのグラデーションを確認し、この繰り返しの連続です。
バスバー

表板の厚みが整えば、バスバーを取り付け、最終的な調整に進みます。

バスバーは駒と弦の厳密な関係性があるので、バスバーを接着させる位置をしっかりと割り出し、その通りに接着させます。要所事に膠の接着をしますので、この固着待ちを利用してランチにしたりしました。

バスバーは魂柱同様に音への影響が大きなパーツですが、魂柱のように気軽に取り替えが出来ないので、その点では魂柱以上に重要なパーツと言えるかもしれません。
ラベル製作とサウンド・ボックス

納得のゆくバスバーができれば、あとはリブへ接着しサウンド・ボックスにするだけです。

今回はラベルの用紙に羊皮紙を用いました。羊皮紙の中でもランクの高い子羊のものでヴェラムを使用しています。経年変化で良い味が出ると嬉しいかと思います。

もちろん一般的な紙で不都合はありませんので、お好みの紙で大丈夫です。このラベルをF字孔から見える部分に貼り、表板を接着させるとサウンド・ボックスになります。

表板を接着させる際に必要不可欠なものがクランプです。ここではサウンド・ボックスにするためのクランプを利用しました。

クランプはボディの厚み(裏板エッジ部分とリブ、表板のエッジ部分)を挟む事が出来れば良いので、直径25mm程度の丸棒を10mm厚くらいに切り分けます。1つのクランプに切り分けた丸い板を2枚使います。この丸い板の中心に3mm程度の孔を開け、ここに太さ3mmの長いボルトを通します。開けた孔とボルトのナット部分の状態を勘案し、必要に応じてにワッシャーも使います。

このボルトのナット部分に丸い板を1枚、そしてその上に丸い板をもう1枚、そしてボルトに合う蝶ネジで1セットとなります。使うときは丸い板の隙間を拡げて、ボディのエッジを挟むようにして蝶ネジで固定します。そのため、丸い板のボディに接触する部分はコルクシートなどを貼ると養生になります。

表板をしっかりと固着させたのち、クランプを外して表板と裏板のエッジを整形しました。

ネック

晴れてサウンド・ボックスが完成したらネックに取り掛かります。指板が仮付けされているので、まずはスクロールの整形です。ここはCNCルーターで加工されたままでしたので、好みに応じて削り込んで形を整えます。

次に指板の厚みを整えます。キットは厚めの指板でしたので、厚みを調整し、裏側も削り込みます。厚みを調整するとネックに合わせた時に最適な厚みとなりました。

指板を外してスクロールを整形するとネックを損傷する可能性があるので、指板の調整かスクロールの整形かの順番は好みで良いですが、ネックの保護を考慮すると作業性は高まります。

ホワイト・ヴァイオリンへ

ネックの組込

キットの状態ではネックを組み付けるホゾが加工されているので、このホゾに合わせてネックの付け根を微調整しながらネック長とボディのストップを合わせて最終的な組付け角度を調整してゆきます。

ネックの組付け準備が出来ると接着です。横から見るネックの角度と正面から見るネックとボディの中心を揃えてクランプ出来るようシミュレーションして本接着です。

ネックの整形は難しい部分ですが、ほとんど説明しなくとも綺麗に仕上げていらっしゃったのはさすがです。

ここまでの経過と続きはYOUTUBEにてご覧いただけます。

バイオリニスト 小泉奈美

演奏をはじめ「やってみたい事」をアップロードされていますので楽しくご視聴いただけます。

リンク:https://www.youtube.com/channel/UC8TIEBNK99gxtY5EJaos0Qw

チャンネル登録すると新しいアップロードごとにお知らせも届きますので是非ご覧ください。

ヴァイオリン・キットを製作” への2件のフィードバック

  1. Olá neala.

    Construir um violino em kit foi uma experiência nova para mim, e lembrou-me da minha primeira experiência de construir um violino, quando ainda nem sequer conhecia a estrutura de um violino.
    Além disso, aprendi a escolher palavras fáceis de entender, explicando-as a terceiros.
    Estou ansioso por voltar a falar convosco sobre violinos!

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